2020年5月9日夕方、TBS「報道特集」にて失語症が取り上げられた。
あまり知られていない失語症。失語症とは言葉が話せなくなる症状だと勘違いしていたと語るスタジオのキャスター(膳場さん)
筆者が今回、過去記事で疑問に思ったことが、どうやらまだ継続しているようなので。改めてこの格差を考えます
過去記事
失語症と吃音の障害者手帳格差について考える
報道特集では特別に「失語症で障害者手帳を取得できるか」の部分については切り込んでいませんでした。とりあえず、困っていること、困っている人がいること、自治体や国の支援策が報道されました。
しかし筆者としては、過去記事に書いたように、発達障害者支援法、発達障害としての吃音は「軽度」でも手帳は取得できるところが今回の失語症特集においてモヤッとしたところです(発達障害支援室に確認済、後に就労移行支援事業所、放課後等デイサービスをしている
kaienティーンズさんもそれを明記)
Twitterにて、「2020現在は流石に、吃音と同じように失語症の人も精神障害者保健福祉手帳は取れるのですよねという思いをこめて」とつぶやいたところ。失語症当事者さんから取得できませんというリプがありました。
なるほど。その会場で大勢がいる質疑応答にて、言語聴覚士等支援者もいる所で「吃音だと精神障害者保健福祉手帳が取れるのに、今、その場で困りごとを講演してくれた当事者さんが手帳取りたくても取れない、これを聞いておかしいと思いました。障害者運動したほうがよいのでは?」的な内容を述べたのですが――。筆者が2017年にこれって変だよねと過去記事で取り上げたのですが
筆者の投げかけた疑問が高次脳機能障害、失語症の団体、業界にはこれが広まっていなかったということになります。
――― 障害レベルのスケールで取得可否が決定する身体障害者手帳 日常学校職場でできないこと、困りごとがあってそれによって取得可否が決定する精神障害者保健福祉手帳のこと
行政職員や発達障害児者に携わる医療従事者・言語聴覚士はよく指摘するのですが。「
あれだけ、吃音を障害者にするな、吃音で障害者手帳を取得しようとする団体や業界の動きを潰してきた経緯があるところ。吃音が発達障害者支援法に含まれていて、精神障害者保健福祉手帳を取得できるルートがあるのは本当に不幸中の幸い。しかし2013年に吃音看護師が自殺したのは使える社会保障制度を知らずにそうなってしまったことがとても心が痛い。吃音業界が発達障害者支援法を隠していたのはありえないこと」といった話をしてくださる方がいます。
現実問題として吃音業界、団体は障害者運動をしておらず(以下 関連記事)
【重要なお願い】吃音業界は2005年4月から施行の発達障害者支援法を本当に知らなかったのか?なぜ2013年に北海道で吃音看護師が自死したのか
吃音は発達障害支援者支援法の対象→精神障害者保健福祉手帳の対象→精神障害者保健福祉手帳は日常学校職場社会参加で「できないこと、困ることがある」これで障害者手帳を申請できる。
関連記事
吃音による精神障害者保健福祉手帳申請書類の記入例とは?
しかし身体障害者手帳としての吃音→身体障害者手帳は「認定基準・検査・この数値を満たしたから●級。これを満たさないと認めない」と仕組みがあり。まず、検査結果、そして数値を満たしたかどうか。ここで判断されます。
故に、2014年7月に吃音が発達障害であること、発達障害者支援法の対象であることが再度周知されるまでは。身体障害者手帳の等級4級と3級ではなくて、5級を設置してもらうように障害者運動を吃音業界で展開しようとした時期もありましたが。無論、
吃音至上主義者達の妨害にあい潰されました。そして吃音至上主義達が自分たちの聖域を守っていたところ。いよいよ2013年の吃音看護師自死の報道があり、さらに報道において、
NHKのバリバラで【吃音は厚生労働省が障害と認めていない】と誤報されたことにより、厚生労働省の有志職員、本当に志をもった職員さんが立ち上がります。(プロジェクトXが一本撮影できる内容です)
有志職員、発達障害業界の専門職と熟考に熟考を重ねて取った行動が、2014年7月の『国立障害者リハビリテーションセンター(吃音の診療旗艦病院である国リハ病院も何もしないので)の
同じ敷地内にある発達障害情報支援センターから吃音は発達障害ということ再度周知しよう』プロジェクトが実行にうつったわけです。その後、それに呼応する形で、東京都の発達障害支援ハンドブック2005でも吃音は発達障害と明記しました。そして東京都が吃音を発達障害としたからウチもやるぜ!という地方自治体がどんどん出てきたわけです。そして2020年現在、東京都の発達障害支援政策がバージョアップされ吃音を診療する小児科、児童精神科、精神科リストまで公開されることになります。
このようなこともあり。吃音業界の医療従事者で吃音至上主義に染まっていた人が『僕も、私も2005年から発達障害者支援法は知っていました。発達障害のあるお子さんに吃音の人もいます。発達障害のあるお子さんを診療しますよ。』などと180度手のひら返しをしている恥ずかしい人もいます。腹の中では今でも、吃音児者が合理的配慮や障害者手帳を取るのは許さんと思いつつ。収入を得るために「発達障害に理解あるよ」というスタンスに変化しているわけです。これでは、吃音看護師自死、製薬会社新入社員自死が発生するわけだ。と思いますね。
そしてついに、吃音で、精神障害者保健福祉手帳を取得できる、合理的配慮を申請できる。障害者枠でも当事者、採用側、また就労移行支援事業所の合理的配慮についての話し合いがあり書面化されれば吃音者を雇用したいという企業も出てきているわけです。就職のみならず、
日常、学校での選択肢も当事者や家族がそれを希望すれば行使できる可能性が増えたのです。
―― 失語症の当事者や家族はどうなの? 問題の本質は、日常学校職場でできないことがあるという精神障害児者、発達障害児者と同じ、困りごと。失語症の場合、手帳認定基準が異なっているのでは? 発達障害業界の言語聴覚士、吃音業界の言語聴覚士、高次脳機能障害業界の言語聴覚士は協力できないか?
2020年現在。吃音は身体障害者手帳を申請するよりも精神障害者保健福祉手帳を申請したほうが認められやすいのですが。これが失語症の場合どうなるのか。結局、身体障害者手帳とされている部分が大きい。精神障害者保健福祉手帳を申請しても、認められないという問題がおきているわけです。
発達障害全般で言えることですが。日常や学校や職場において、1年間365日。ありとあらゆる場所空間で。対人関係で。できないこと、失敗してしまうこと、感覚過敏があること、忘れてしまうこと、一人でできないこと、発達障害特性を軽減するアイテムを使うこと、つらい思いをしたこと、騙されてしまったこと、ありとあらゆるできないこと困ったことを、医師に申請書類に書いてもらい精神障害者保健福祉手帳を取得していることになります。
発達障害で言えば、職場は一派枠で働いているが、精神障害者保健福祉手帳3級や2級を持っている人もいます。掃除洗濯家事炊事ができない場合は公的負担のヘルパーを使いますし。家族や配偶者がそれをやってくれる場合があります。
最初のほうに紹介した、失語症当事者さんのTik Tokを視聴しましたが。ADHDと同じ困りごと、吃音と同じ困りごとを明らかに持っています。となると精神障害者保健福祉手帳の3級は取れるのではないか?と筆者は思うわけです。
身体障害者手帳=検査。明確な数値。基準がある。
精神障害者保健福祉手帳=何ができないのか。何で困っているのか。どのように日常、学校、職場で影響しているかで認めてもらえる可能性がある。
失語症と発達障害の場合、どこかが違うのでしょう。
どこが違うのか。
高次脳機能障害の失語症においては、身体障害者手帳で対応するという指針が国立障害者リハビリテーションセンターから出ているから、それが関係者に広まっているからとも推測できます。で、失語症としてICD10のコードを精神障害者保健福祉手帳申請書類を書くと、その段階で弾かれるのではないかとも思います。吃音の場合は発達障害者支援法で精神障害(発達障害ふくむ)なのでF98.5コードを書けば審査されるわけです。しかし失語症も吃音も「こまりごとは似ている」、高次脳機能障害の記憶障害で何かを忘れてしまうのは「ADHDのこまりごとと似ている」わけですから。精神障害者保健福祉手帳3級程度は取れるはずなのです…。
それらの、診断基準の塩梅、暗黙の了解を理解しているのは言語聴覚士だと筆者は考えます。
言語聴覚士というのはこれまた不幸中の幸いで、発達障害業界、吃音業界、高次脳機能障害業界に携わるのです。おそらく、この3つの業界全部に携わる人はいないと思います。発達障害業界に深く関わる言語聴覚士は「吃音業界に携わる言語聴覚士が2005年からの発達障害支援者支援法を隠していること、吃音はかわいそうな障害者じゃないよとおしえること、言語聴覚士協会はJDDネットに入っているのにね…」と考えていたわけで。吃音業界のことをとても心配していた人はいます。というように、縦割り社会になっているわけです。高次脳機能障害業界の場合はどうなのでしょうか?吃音業界の吃音至上主義と同じように、社会保障制度を利用するのは恥ずかしいことだと思っている人もいるのでしょうか?
発達障害業界の言語聴覚士は、精神障害者保健福祉手帳の取得方法や申請方法を深く理解している(上述した困りごとの表現方法、吃音による精神障害者保健福祉手帳申請書類)、精神科医師とも協力しているはずなので、発達障害当事者の困っていることを深く丁寧に質問し聞き出し。それを申請書類に書いてくれるのだと思います。
これを高次脳機能障害業界の医師、言語聴覚士が熟知すれば、もっと精神障害者保健福祉手帳を取得できる可能性が広がるのではないかと考えます。
しかし、発達障害と精神障害とはことなる、身体障害として考え方が【申請され、審査する側の医師にあるとすれば】たしかに失語症や高次脳機能障害の人が困っていても精神障害者保健福祉手帳を取得できないという実態もあるかもしれません。いずれにせよここを調べないといけないのかもしれません。
となると、発達障害業界の医師、言語聴覚士と高次脳機能障害業界の医師、言語聴覚士の連携が必要になる、情報共有が必要になる。【発達障害と失語症で同じ困りごとなのに、こっちは取れた、こっちは取れなかった】の診断書の突き合わせ調査が必要になるのではと筆者は考えます。
――毎日新聞の社説 発達障害の場合は認められるのでは?という切り口で書いてほしかった
失語症を扱った毎日新聞社説が2020年4月4日に出ています。なんと世界自閉症啓発デー、発達障害啓発週間のときに報道されていました。しかも4.25は失語症の日というものができたようです。ダウン症と世界自閉症啓発デー、HIV啓発のように予算がつけば大規模な啓発活動に今後つながりそうです。
脱線しました。
毎日新聞社説 失語症への支援 社会復帰の施策が足りぬ
毎日新聞の社説ですが。身体障害者手帳の等級の枠を広げて、高次脳機能障害の人もっと取得できやすくすべきというように書いてあります。
しかし筆者は先程からずっと書いているように。まず
同じ困りごとなのに
失語症の場合は精神障害者保健福祉手帳を取得できない
発達障害の場合は精神障害者保健福祉手帳を取得できる
問題を取材報道したほうがよいと思います。
そしてゆくゆくは、身体障害者手帳や療育手帳(自治体によって数値のひらきがある)は数値や明確な基準が必要で、精神障害者保健福祉手帳はそうではない。しかし失語症の場合はなぜか厳しいのではないか?
という切り口で取材してもよかったのではないかと思います。幸いにも毎日新聞社には「発達障害やひきこもりやセクマイ」を取材するのを得意としている記者さんがいます。「吃音」を取材するのを得意としている記者さんもいます。
「失語症・高次脳機能障害」を取材するのとを得意とする記者さんもいるでしょう。
毎日新聞の社内の記者さんだけで。多くの情報収集はできるわけです。
そしてその事例を厚生労働省の担当部署に質問すればよいわけです。
結果的には、障害の程度、重さの明確な基準は身体障害者手帳として必要になるかもしれないが。日常学校職場で困っていることを基準にしてもよいのではないか?発達障害の場合は更新制度はいらないのではないか?などに、報道機関として問いかける内容をもっと深堀りできるはずだと考えます。身体障害手帳が無理なら、スムーズに精神障害者保健福祉手帳を選択できるという流れがガイドラインが必要になるわけです。ここは吃音と同じです。しかし、軽度吃音で精神障害者保健福祉手帳を取得できるのに、軽度失語症(吃音の軽度の人同じくらいの喋り方でも)では精神障害者保健福祉手帳が取得できないのはおかしくない?という報道があればと考えます。
―― さいごに 失語症当事者・家族 医師、言語聴覚士、支援者は一度大規模な障害者運動をしたほうがよいのではないか?
筆者が考えるのは「
過去記事」でも触れましたが。
今回のTBS報道特集をみて、困っている失語症当事者さんがいることがわかり本当に心が痛みます。「ええーあの困りごとなら発達障害としての申請なら通るのでは?」と思うわけです。
高次脳機能障害・失語症業界はまず、発達障害業界とつながること。そして例えば毎日新聞なら発達障害記事を得意にしている記者さんとつながること。身体障害記事を得意にしている記者さんとつながること。そして診断基準などが曖昧なのではないか?日常学校職場で困っているなら取得できるようにしてほしいなどの部分を厚生労働省に問い合わせ取材するように動いてもらえばよいのです。
その次のステージは国会議員さんも巻き込んで、国会または厚労省委員会で取り上げてもらうことです。(ここらへんはとても大変なステップがあるため、筆者に連絡をいただければ色々お伝えできることはあります。場面緘黙業界の方は私からの助言で事態が好転しています)
まずは高次脳機能障害、失語症のみなさん。
一度、「何かへんじゃない?」と思う人で集まってみればよいのではないかなと。